biblioarenaで紹介させて頂いたカポーティの短編集。この本には子どもが多く登場する。そのほとんどはカポーティの幼少期の実体験をモデルにしたものだ。カポーティは両親に捨てられ、アラバマの親戚の家で育てられた。そのとき、一緒に暮らした親友でいとこのスック(といっても60過ぎのおばあさんである)との日々をモデルにした「クリスマスの思い出」では、11月の寒さが厳しくなる頃、(ちょうど今くらいの季節)「さあ、フルーツケーキの季節がきたよ」といって一年間にためたほんのわずかなお金を全てつぎ込んで、大切な人たちのためにフルーツケーキをつくり、幸せなクリスマスを迎える。
もうひとつ、「あるクリスマス」では、たった一度だけ、カポーティ少年が父親と過ごしたクリスマスの悪夢について語られている。愛情を押し付けられ、あげくの果てにサンタクロースの存在を否定された少年カポーティは、父親にある復讐をする。しかし、アラバマの家へ帰ってみると、とてもひどいことをしたのだということに気がつく。そしてその償いをし、父親に手紙を送る。それが彼にとってはただの懺悔なのかもしれなかったが、父親にとっては得たくても得られなかった愛だった。
この二つのクリスマスの話が収められた短編集は、カポーティという人間を考えるうえで、かなり興味深い表裏一体の対の物語である。
この短編集には、カポーティが最初に描いたとされる短編と、生涯最後の小説が収められている。その最後の小説が、「あるクリスマス」である。カポーティは何を求め、何に飢えていたのか。実はこの物語では、父親こそがカポーティそのものだったのではないかとさえ思えてくる。
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Takanaga Fujii