綾辻行人による、館シリーズ番外編のような位置づけにして、館の持つ不思議な印象を漂わせる傑作ミステリ。
例によって例のごとく、いわゆる「雪山の山荘」的舞台に閉じ込められる主人公たち。「私」は登場人物のうちの一人、鈴藤(りんどう)で、彼の視点で物語が綴られていく。
事件から4年後、舞台となった館「霧越邸」に再び赴こうとする鈴藤の回想から物語がはじまり、やがて「霧越邸」にたどり着くことになった劇団「暗色天幕(テント)」の面々。やがて彼らを惨劇が襲う。
不思議な力を持つ館の独特の雰囲気もさることながら、そこで展開する殺人事件もいかにも「綾辻好み」の意匠を施されている。本格ミステリではこれまた良くある「見立て殺人」、しかもそれが連続して起こるという非日常的な事件。巧妙にちりばめられた「暗合」。丹念に織り込まれた伏線と見落としてしまいがちなヒントの数々。綾辻行人が得意とするこれらが、劇的なまでに見事に構築され、衝撃のラストへと昇華する。
文庫版解説の笠井潔も絶賛するこの作品の完成度は非常に高く、僕がいまだに綾辻の最高傑作と信じる「暗黒館の殺人」が発表されていなければ、まさに最高傑作の名をほしいままに出来たであろう作品だ。文庫で4冊にわたる大作「暗黒館の殺人」はその大作が故に手に取りづらいというむきも、本書であれば手に取りやすく、かつ綾辻行人が綾辻行人たる所以もしっかりと認識できるに違いない。
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Atsushi Egi