はっぴいえんどやはちみつぱい、シュガーベイブなど、日本のロック黎明期を支えたアーティストを輩出し、音楽事務所の先駆けともなった「風都市」にまつわるインタビュー集(の体裁をとったルポルタージュ)。事務所の関係者はもちろん、数多くのアーティストの証言も含まれ、40年の年月を経た今となってはとても貴重な資料。
風都市の起こりから発展、衰退、そして消滅という、生き物の一生にも似た波瀾万丈の物語が当事者たちのインタビューを通じて語られていて、当時の新宿界隈が醸し出していた空気感がそのまま伝わってくるかのよう。
「自分たちの好きなアーティストを集めて、新しい音楽を広める」と理想に燃えた音楽好きの若者グループがつくった風都市というインディ空間が存在できた時間はとても短く、わずか5年足らずで消滅の憂き目にあってしまった。けれども、関わった人びとの口から出るのは後悔や無念さではなくて、むしろ達成感や懐かしみであり、そして「出てくるのがもう5年遅ければ、もっとうまくいったのに」というほんの少しの欲だ。
風都市の立ち上げに関わった人びとのほとんどは、すでに業界から去っている。ある者は大学教授に、ある者は雑貨屋の店長に、またある者は行方知れズということで、経ってしまった時間の長さと、流行の儚さという甘酸っぱさが身に染みる。
ビジネス本的に読めば理想一辺倒だけの企業は成功しない、という教訓も得られるし、はっぴいえんどやはちみつぱいの裏バイオグラフィ的なものとして、「聞き取り調査」のひとつのサンプルとして、あるいは社会文化史の資料としても読めるかもしれない。目を通すごとにいろいろな発見がある本。
最後にひとつ。「売れることは罪悪だ、堕落だという無形のマイナス・ベクトルがものすごく出てた気がする。……デビューしたころは、それ以前の売れてる音楽はみんなひっくるめて歌謡曲として否定しようとしていたのよ。でもだんだん、売れているものでもいろいろある、志のあるものがあるということに気づいてきた。ロックってその時点での表面的な見え方じゃなく、持ち場持ち場でのアティチュードだってことにね」(189ページ)とはユーミンの発言。
これを彼女の自己弁護ととるか、インディ精神たくましい「音楽通」への非難ととるかは微妙だけれど、ユーミン自身がこういう葛藤を抱えていたというのを知って驚いた。
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Tomokazu Kitajima