この本を買いに新宿サザンテラスの紀伊國屋に行ったら十数冊平積みされていたのにまず驚いた。美大や専門学校の教科書にでもなっているのだろうか。2600円だから学術書としてみれば安い部類になるのかもしれないが。
いわゆる芸術と呼ばれるものの主要分野である、美術・音楽・建築・ダンスの4つを技術論として読み解くというもので、「芸術は何によって構成されるのか」を問うていて、「芸術とは何か」を問うているわけではない。本書においては形式が内容に先行している。
自分なりにこの本の内容をひと言でまとめるとすると、「芸術とは本来、作者のインスピレーションによる極めて一回性的(つまり反復できない)なものだったが、それを反復・再現可能にしてきたプログラムは、どのように構成されるのか?、そしてそのアプリケーションの構成要素についての解説書」ということになるだろうか。
建築から音楽、美術、ダンスにいたるまで、それらを「可視化する」ための技術について説明されている。音楽の例で言えば、コード表や楽譜、ムーグの周波数チャート、鍵盤楽器や弦楽器の配列、さらにはDTMソフトウェアのシーケンスがいかにしてルール付けされてきたかを執拗なほどに詳しく見ている。
芸術という、とても即興的で一回性の強い行為を、いかにルール付けしてアプリケーションとして成立させて反復可能なものとするか。芸術に直接携わることのない自分ではあるけれど、どれだけ多くの人々に感動や共鳴をもたらして気持ちの良いユーザー体験を実現するかという、メディア運営にもいくぶんか似た要素があることも確か。それにしても、ここまで綿密に史料を引っ張り出す筆者の熱心さに頭が下がるばかり。
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Tomokazu Kitajima