英国の書籍編集者による編集技術と心構えを説いたレクチャー本。サブタイトルにもあるように、著者とのつきあい方から社内調整、企画書の作成方法といったHow toを細かく指導していくものだが、読み進むにつれて筆者の職業愛が全面にでてきて、最後の方では編集という仕事のやりがいについて、ひたすら情熱的に説いている。英米のこの手のテキストは、非常に実践的かつ技術的でありながら書き手の情熱の表現を自制することなく書き上げられたものが少なくない。
本書では、著者との人間関係をどう構築するかというところにかなりのページが割かれている。書籍とWebという違いはあれど、この根本部分に変わりはない。寄稿してくるライター陣(だけでなくカメラマンやデザイナーも含む)の質をいかに見極め、信頼関係を構築し、彼ら・彼女らのモチベーションを引き出しながら能力を最大限に発揮してもらえるか。それが媒体の正否を決定づけるといっても言っていい。当然ながら、社内の営業担当やクライアントに代理店、そして最も重要な読者の存在だって無視できるものではない。本書では、こうした人間関係のハブたる編集仕事のスリリングさ、やりがいを強く強調する。
「どのようなルートで編集者になるにしても、今やあなたは技術と努力を求められる仕事についている。それに正面から取り組むことができれば、やりがいも影響力もあり、変化に富んだ、そしてとりわけ刺激的な仕事であることがわかってくる。これは特権的な地位であると言っていい。こんなに満足感を得られる職に多くの人がつけるわけではない」(247)
「社内で、あるいは他の職業との比較においても、編集者の存在を特別なものにしているのは、自分の努力を形あるもので示せることである。…一冊の本は多くの人間の手と頭脳がからみあって世に送り出されるものである。その結果は関わったすべての人間が手にできる小さな奇跡だ。しかし、編集者は著者をのぞけば唯一、その本の存在そのものを生み出したと主張できる人物である。それこそが満足である」(248)
どんな職業にだって魅力ややりがいはあるだろうし、仕事以外にも人生の楽しみは山ほどあろうが、まったくの無から有形を作り出す産みの苦しみを乗りこえる過程を楽しいと感じることのできる極度のマゾヒストにとっては、この上ない職業なのかもしれない。
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Tomokazu Kitajima