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虹伝説

ウル デ・リコ(著)
Ul de Rico(原著)
津山 紘一(翻訳)

小学館

発売日: 1997-05

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【虹伝説】

高中正義のSeyshells(ソロデビューアルバム)がKittyの編成会議にのせられた時、誰もがなんとも言えない苦笑いを浮かべた。(編成会議と言っても当時はまだスタッフが10人程しかおらず、30前の若造がT-shirts、Jeansでサークル活動のミーティングを開いているようにしか見えなかった)
「良いんだけどさー、こんなの誰が買うの?」
この頃はまだフュージョンブームも本格的になっておらず、ましてや日本人アーティストのインストものなど、全くマーケットが存在していなかった。

結局、初回プレス2000枚弱と言う、悲惨な数字で高中のソロデビューが決まった。業界内の評価は中々高く、それなりの露出は出来たが、数字を大きく押し上げるには至らなかった。なにか話題になるきっかけが欲しい、、、。そう考える我々に、高中がぴったりの企画を持ち出してきた。

『Mambo No5』このラテンの名曲を、高中は見事なDISCOタッチに仕上げた。我々は当時珍しかった30cm、45回転のサンプル盤を製作、徹底したDISCOキャンペーンを繰り広げた。はたして『Mambo No5』はスマッシュヒットとなり高中はメジャーアーティストへの第一歩を踏み出した。
今振り返るに、高中がメジャーになった背景にはギタリストとしての素養は勿論のこと、プロデューサーとしての卓越した才能アイデアがあったように思う。残念ながらレコードはその良し悪しだけでは売れない。広くユーザー、マスコミにアピールするサムシングが不可欠だ。そのサムシングを高中はものの見事に提供してくれた。『Mambo No5』のジャケットで彼はべたべたポマードのオールバック、真っ赤なスーツ姿で、チャックベリー風の派手なアクションを披露した。このビジュアルアイデアがヒットを呼んだと言っても過言では無いだろう。いまでこそ競ってビジュアルイメージをアピールしているが当時としては画期的なことだった。

高中は次から次へとアイデアを提供、我々も採算を度外視して彼の企画を実現していった。

ある日、高中が一冊の絵本を持って事務所を訪れた。
「これをテーマに、アルバムを作りたいんだけど」ハードカバーのカラフルな本を覗くと『The Rainbow Goblins』と言うタイトルが目に入った。それはUl de Ricoという作家の書いた大人も楽しめる絵本だった。七色をした小鬼(Goblin)が虹のたもとを探し出して滴り落ちるジュースを飲む為に冒険をすると言う話だ。
僕らの目はそのカラフルで精緻な絵に釘付けになった。高中の新企画としてはもってこいだ。ラテン、海と言ったイメージが浸透した高中の新境地を開く画期的なプロジェクトになるだろう。
僕らは、その日から動きだした。まず日本での版権を持っている会社を探し出す。「タトルモリエージェンシー」。我々は交渉の結果レコーディングの許諾と共に日本での出版許諾も同時に取得、レコードと絵本の同時発売を企てた。
僕は当時親しかった小学館『GORO』編集部の島本さんに相談、彼の後押しで出版が決まった。発売日に武道館コンサートを開催することも決定、こうしてKitty-小学館タイアップのもと業界で類を見ない大プロジェクトがスタートした。

このプロジェクトで、僕らが一番腐心したのはグラフィックだった。精緻でカラフルな原画をそのままアルバムジャケット、ポスター、コンサートプログラムなどに再現しなくてはならない。予想外の時間と手間が校正にかかり作業は難航した。
一方高中もレコーディングに苦労していた。なんせ絵本の一ページ一ページを音で表現していくのだから大変だ。すべての作業が予定より大幅に遅れた。
X-DAY(発売日、コンサートツアーの初日)は迫っている。

当時レコードがマスタリングされてから店頭に並ぶまで通常進行で75日、特別進行でも45日はかかった。出来上がった音源を、各地の営業マンに聞かせて初回オーダーを募るからだ。今回はそんな余裕はない。企画と宣伝計画だけで、オーダーを募った。それでもイニシャル(初回プレス)15万セット(2枚組)がつき高中最大のヒットとなることが約束された。

X-DAYまで40日を切った。それでもレコーディングは終わっていなかった。
僕は連日発売元のポリドールに足を運び、何度もプレス工場のスケジュールを組み換えながらなんとか予定通り発売できるよう必死に交渉を続けた。
レコーディングが終わりマスターテープがあがったのはX-DAYまで後30日という日の深夜3時だった。この時点で初回15万セットの発売は不可能だったが主要レコード店、武道館即売場で発売する2万セットぐらいはなんとか間に合うというギリギリのタイミングだった。ポリドールの記録となる30日進行だ。(この記録を更新したのはやはり僕だった。来生たかお『夢の途中』の25日進行)
目黒のスタジオで深夜マスターテープを受け取ると僕は富士市にあるプレス工場へ向かった。東名高速を西へひた走る。カーステレオからは今出来上がったばかりの『Rainbow Goblins-虹伝説』が流れる。
小田原を過ぎた辺りで夜が明けてきた。朝日に映える富士山は壮絶なまでに美しかった。

スポットライトが当たると満員の客席から大きな歓声と拍手があがった。
カラフルな衣装とGOBLINのマスクをつけた高中正義が壮大なセットの中に浮かび上がる。武道館の最上階からそれを見ていた僕はプロジェクトの大成功を確信すると共に自分の役割を無事果たせたことにホッと胸をなで下ろした。

ステージにかかった巨大な虹の後ろに、朝日に映えた富士山が見えた。

【音楽旅日記】http://www.speakeasy-web.com/takanaka.htm
より

2012-10-08 08:47:24

虹伝説について

2012-08-27 10:25:42

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