この10年の鈴木邦夫の言動を見ていると、このひとって本当に右翼なんだろうかと、この本を読んでつくづく疑問に思う。森達也あたりと並ぶ、生粋のリベラリストのようにしか見えないんだが…。
そんな前置きは置いておいて本の内容を。
同じ思想を共有し、「革命」という目標に向かって国家権力とたたかう集団。高度な理論に裏打ちされた「鉄の」規律も秩序もあるはずなのに、互いが互いを疑い、ついには殺し合いにまでいたる。この本を読んでいちばん感銘を受けたのは、どうすれば人の猜疑心を増幅できるか、内輪モメを惹起できるか、ということであった。
こうした内ゲバを背後から糸を引いているのは、まぎれもない公安警察だと、鈴木氏は推測する。
氏によると、「組織の内部に公安のスパイがいる」「スパイからの通報で逮捕した」という噂を公安自身が意図的に流すことで組織内部の疑心暗鬼を誘ったのだという。「公安のスパイが仲間にいるわけではない。しかし公安を過大視し、その巨大な影に怯え、不安に駆られる。そして勝手に殺し合いをする」。組織の結束が強ければ強いほど、機密性が高ければ高いほど、「公安のスパイがいる」という噂が生むインパクトは強いわけだ。
内容の少なからぬ部分が伝聞であることから、公安警察の実態が鈴木氏の言うとおりであるかは知るよしはないが、彼自身、右翼団体の元幹部として公安警察の「被害」を受けているわけで、語るところにはかなりの説得力がある。
市中にデモへ出ている人びとは、なぜヘルメットにサングラスという出で立ちをするのか。それは公安警察のブラックリストに載る危険があるから。彼(女)らはたいへんな勇気と覚悟を持ってやっているのだ。そんな勇気を持ち合わせていない臆病な自分のちっぽけさも痛感する1冊。
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Tomokazu Kitajima