世子(=跡継ぎ)と決められた後も父親からの過酷な『お試し』という名の挑戦を受け続けた幼少期に始まり、傍若無人の限りを尽くした多感な時期、天下を取る術を見定めた時期、愛すべき者たちとの人間関係をはぐくむ時期、自分を置いて周囲の者がこの世から立て続けに去っていく時期、自分の理念に邁進する時期、ある種の諦観を抱く時期…と、なんとまぁ、これほどまでに鮮やかな人生があるものなのか?と感心させられるような波乱万丈を地で行くような作品なのだ。ただし、時系列で話を並べているだけではない。最初の数ページで「光圀が心ならずも自らの手で殺めねばならなかった男がいる」ということが分かる。その後のすべての話は、その男の死に向かっていく。
光圀は「義か?不義か?」で全ての行動を決めていくような男だ。それは、自分が世子となったいきさつにある。殺めねばならなかった男にも「義」があり、決して恣意的に動こうとしたわけではない。しかし、義は相対的なモノだ。正義はTPOに応じて変わる。それを分からぬゆえにその男は殺されることになったのだと思う。揺れ動く自分の人生を生き抜いた結果、光圀が手に入れた心境を、この作品を読む頭の中に広がる景色とともに味わうことができる作品だと思う。何よりも、750頁を超える作品なのに、読むことが全く苦にならないような、そんな鮮やかな筆捌きを垣間見た気がする本である。あっぱれ!
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Hiroko Kashimoto