「それでは、どうして日本で医療機器産業が栄えないのか?日本のお家芸であるはずの精密機器の分野で、なぜ医療だけが放置されるのか?
結局は、この問題も、国民皆保険と診療報酬制度に行き着きます。たとえば、国がMRI検査の診療報酬点数を大幅に引き下げたとしましょう。すると、メーカーもMRIの販売価格を引き下げます。そうしないと病院から買ってもらえないのですから、やむをえません。
ところがこのとき、国はMRIの研究開発や製造コスト、またメンテナンスなどの原価計算をいっさい考えていません。ただ予算ありきで点数引き下げを行っているだけです。その結果、メーカーは損益分岐点を下回った価格でMRIを販売せざるをえなくなる。こんな馬鹿げた話が実際に起こってしまうのです。
本来、モノの価格は市場によって決められるはずなのに、医療機器はそうならない。国がいい加減に決める診療報酬点数に連動する形で対応していかざるをえない。
ただでさえ医療機器には事故発生時の訴訟リスクがあるのに、こんなでたらめな制度のもとでは、多額の研究開発費を投じるメリットなどありません。国内メーカーが撤退していくのも当然でしょう。…
…国内でしっかりと利益を確保できる基盤があれば別ですが、国内でさえ稼げる保証がないのに、わざわざ巨額の投資をして海外進出するメーカーは少ないでしょう。結局は、診療報酬という理不尽きわまりない制度のせいでメーカーが育たないのです。
日本の製造業、とくに精密機器には、まだまだ世界に負けないだけの確かな技術力があります。しかし、せっかくの技術に、国の『制度』が食いつぶしている。国民皆保険とそれを支える診療報酬制度があるかぎり、日本の医療機器メーカーが世界を席巻することなどありえないのです。」
医療の輸出産業化を阻むもの
第3章 医療がこれから日本の基幹産業になる
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Gen Sakata