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ビジネスブックバンク Vol.208 2012.12.23 SUN

■■今週の書籍紹介
・リストラなしの「年輪経営」 
・塚越寛(著)

■■ 本書の目次  

第1章 「年輪経営」を志せば、会社は永続する
第2章 「社員が幸せになる」会社づくり
第3章 今できる小さなことから始める
第4章 経営者は教育者でなければならない

 年輪経営とは、木がどのような環境でも少しずつその年輪を重ねるように、どのような環境でも、少しずつ「低」成長していきましょう、という概念です。
 この背景に横たわる思想は非常に突飛ですが、実は最も大切なことです。
 なぜ、低成長を志向するかというと、売上が上がることではなく、「社員が成長を感じられることが続くこと」が目的だからです。
 具体的には、急激な拡大により社員が疲弊したり、一時的なブームにより、そのしっぺ返しが来ることはマイナスだと捉えているからです。
 塚越社長は、経営のあるべき姿とは、「社員を幸せにする会社をつくり、それを通じて社会に貢献する」というものだとおっしゃっています。
 例えば、会社は家族であるならば、食べ物が少なくなったからと言って、家族を追い出して残りの社員で食べ物にありつくようなことは
あってはならないと。
 さらに、もし途中で会社が無くなれば、社員が幸せではなくなってしまうので、企業は継続し続けなければならないという考えで経営されており、まさにゴーイングコンサーンを理念としているような会社です。
 このように自社があるべき姿、つまり、社員を幸せにするために、少しずつ成長し続けることを目指す年輪経営は本当に素晴らしいと思います。
 僕は経営コンサルタントなので、実はこの話は良く耳にします。
 ですが、それと同時に残念なのは、多くのコンサルタントが、伊那食品工業を「寒天」という特殊で独自な商品を持っているから、できたことで、誰にでもできることではないと揶揄していることです。
 しかし、僕は絶対に違うと思います。伊那食品工業は、「誰にでもできることを、誰にもできないくらいやった」のです。
 そんなおいしいビジネスなら、競合が入ってきて今頃会社が存在していないはずですし、進化していなければ、今頃ゼラチンなどの代替商品に押され、事業が継続できないはずです。
 例えば、下駄職人が、靴の時代になった時に、自分は関係ないと言って消滅したのが良い例です。
 誰もやっていないなら、誰より足や歩くことを知る下駄職人に一日の長があったはずですし、社会はそれを求めていたはずなのに、そこで終わってしまったわけです。
 下駄職人は、下駄を売っているのではなく、「より快適に自分で移動し、何かの目的を果たす」ことを、提供していたわけですので、これをあきらめない限り絶対に価値は続いたはずです。
 だから僕も、きっとその理念や想い、価値が必要とされる限り、企業は永続させられると信じています。
 伊那食品工業も、ビジネスとしても仕組みをしっかりとつくっており、ずっと買い続けてくれるお客様に価値を提供し続け、ファンをつくっているからこそ、今があると思います。
 だから、本書は本当にお薦めしたい一冊です。特に経営層の方にぜひご一読いただきたいですね。

■■チェックポイント B B B C H E C K P O I N T

■会社は社員を幸せにするためにある

 私はひたすら、「会社を永続させたい」「会社は永続することに最大の価値がある」と考えて、経営に邁進してきました。
 正直に申し上げれば、最初の20年間は、そんなことを考えるゆとりはありませんでした。
 生き抜くために、会社を存続させるために、ただそれだけに必死だったからです。
 少し余裕が出てきて、「会社とは何のためにあるのか」「会社にとって成長とは何だろうか」と考え始めるようになったのは、入社して25年を過ぎた頃だと思います。
 長い間考え続けて得た結論は、「会社は、社員を幸せにするためにある。そのことを通じて、いい会社を作り、地域や社会に貢献する」というものでした。
 それを実現するためには、「永続する」ことが一番重要だと気がつきました。
 会社が永続できなければ、どこかで社員の幸せを断ち切ることになってしまうからです。

■急成長は敵、目指すべきは「年輪経営」

 伊那食品工業は1958年の創業以来、2005年までの48年間、ほぼ増収増益を続けてきました。寒天という地味な商品を、自ら市場を開拓しながら、ジワジワと育ててきた結果です。
 増収増益を続けられたことで、自己資本も充実でき、ほぼ無借金経営を実現しています。しばしば「よくそんなに長く増収増益が続けられますね」と聞かれますが、会社の永続を願い、「遠くをはかる」経営を心掛ければ、自ずとそうなるのではないでしょうか。
 もちろん、会社ですから、山あり谷ありです。しかし、いい時も悪い時も無理をせず、低成長を志して、自然体の経営に努めてきました。
 私はこの経営のやり方を「年輪経営」と呼んでいます。木の年輪のように少しずつではありますが、前年より確実に成長していく。この年輪のような経営こそ、私の理想とするところです。年輪は、その年の天候によって大きく育つこともあれば、小さいこともあります。しかし、前の年よりは、確実に広がっている。年輪の幅は狭くとも、確実に広がっていくことが大切なのです。年輪の幅は、若い木ほど大きく育ちます。年数がたってくると、幅自体は小さくなります。それが自然です。
 会社もそうあるのが自然だと思います。会社も若いうちは、成長の度合いが大きいものです。年数を経てくると成長の割合は下がってきますが、幹(会社)自体が大きくなっているので、成長の絶対量は増えているものです。
 また、木々は無理に成長しようとはしません。年輪は幅の広いところほど弱いものです。逆に、狭い部分は堅くて強いものです。こうしたところにも、見習うべき点があります。
 実は、年輪経営にとって、最大の敵は「急成長」なのです。経営者にとって、この急成長ほど警戒しなければならないことはありません。
 当社にもかつて何回か大手スーパーから「商品を全国展開しないか」というお誘いがありました。私は熟慮した末に、このお話を断らせてもらいました。商品をスーパーで扱って頂ければ、売上げは急成長するでしょう。しかし、私は、「身の丈に合わない急成長は後々でつまずきの元になる」と判断しました。
 年輪のように、遅いスピードでもいいから、毎年毎年少しずつ成長していくことを選んだわけです。
 ところが、年輪経営を心掛けている私にも抗し難い波が押し寄せました。それは、2005年に巻き起こった寒天ブームです。テレビの健康番組で、寒天は健康にいいということが広まって、一挙に需要が増えたのです。それまでも寒天に含まれている水溶性の食物繊維が体にいいことは分かっていましたが、ダイエットブームと相まって、まさに火が付いた状態でした。
 それでも、いつもなら私は無理をするような増産には踏み切りません。ただ今回は、お年寄りの方や福祉・医療関係者から、「ぜひ使いたいので頼む」とお願いされたことが心に響きました。
 私は社員のみんなに「急成長は望んでいないが、こうした観点を切実に必要としているお客様がいるので、どうしたものか」と相談しました。社員たちは「そういう事情であればやりましょう」と応えてくれました。
 2005年、伊那食品工業はそれまでやったことのなかった昼夜兼業態勢で寒天の増産に取り組みました。その結果、この年の売上げは前年比40%増となりました。かつてない伸び率に、私は喜びではなく懸念を感じていました。
 案の定、寒天ブームが一段落した2006年からは、売上げが減少に転じました。利益も前年を下回りました。過大な設備投資などはしていなかったので、通常の生産体制に戻すだけで、大きな痛手は受けなかったのですが、それでもこの後遺症から脱するには数年かかりました。寒天ブームは、逆に「年輪経営」の正しさを、私たちに教えてくれたものと思っています。

■社員が「前より幸せになった」と実感できることが成長

 売上げ至上主義の会社はいまだに多いようです。そういう会社の経営者は、とにかく売上げを伸ばさないと会社は成長できないと、頭から信じています。はなはだしい場合は、原価割れで赤字になっても、売上げを増やそうとします。
 もちろん、売上げが拡大していかないと、会社経営が成り立たないということは理解できます。しかし、売上げが伸びることが、会社が成長することだと考えるのは、ちょっとおかしいのではないでしょうか。
 「売上げの伸び=会社の成長」と見るから、売上げを増やすことが会社の第一目的になってしまうのです。売上げが大きく増えたから、会社も大きく成長したと思うことは、錯覚でしょう。売上げが増えて利益も増えることは、喜ばしいことです。
 しかし、売上げや利益を大きくすることが、会社経営の目的でしょうか、会社の成長の証でしょうか。私は、会社はまず社員を幸せにするためにあると考えています。売上げを増やすのも、利益を上げるのも、社員を幸せにするための手段に過ぎません。
 年輪経営は、「売上げも利益も前年を上回ればいい」ことが目安です。大幅な売上げ増、利益増は、求めていません。何かのチャンスがあって、無理をすれば一年でできることも、自然体で二年、三年と時間をかけて達成していきます。その方が、会社を永続させることにもつながるわけです。
 私は、会社が成長するということは、社員が、「あっ、前より快適になったな、前より快適になったな、前より幸せになったな」と実感できることだと考えています。快適さや幸せを感じる度合いがだんだんに高まっていくこと。これが会社が成長している証なのです。売上げも利益も、この会社の成長の手段に過ぎないと思います。
 幸せを感じるには、より給料が増えるとか、より働きがいを感じるとか、より快適な職場で働けるとか、さまざまなことがあるでしょう。これらの実現と会社永続のバランスを取りながら経営していくべきだと考えています。

■人件費はコストではなく、会社の目的そのものである

 私は、人件費はコストとは考えていません。人件費は目的なのです。
 例えば、兄弟とか、親しい友人で事業を起こしたとします。その時に、人件費が少なければ少ないほどいいと思うでしょうか。そんなことは、ないはずです。みんなで一生懸命に働いて、より多くの報酬を得て、幸せになることは、事業を起こした目的の一つなのですから。
 報酬を減らして、会社の利益を増やしても、事業を起こした意味がありません。上場企業は別でしょうが、一般の中小企業であれば、使うべきものを使い、払うべきものを払った後で、利益がゼロになっても構いません。もちろん、会社の維持に必要な経費は使った上でのことですが。使うべきもの払うべきものを支出した上で、利益がゼロになっても恥じることはありません。
 私が「利益はカスだ」という理由が、ここにあります。なんでカスをいっぱい貯めなきゃならないのか。本来、使うべきこと払うべきことを、きちんと実行していれば、企業の永続は可能です。これが未上場の中小企業の正しい考え方だと思います。
 利益を上げようとするならば、まず商品やサービスの付加価値を上げることを考えるべきです。そして、適正な価格で売れる仕組みをつくることです。
 残念なことに最近は、付加価値を高めるという大変な労力のかかる仕事をおろそかにして、コスト削減という手っ取り早い方法に走っているように思えます。リストラなどは、その最たるものでしょう。
 伊那食品工業では、これまでリストラをしたことがありません。本来リストラというものは、最後の最後になって、どうしようもないという状態に陥った末に、やむなく手を付けるもので、それは経営者として持つべき最も基本的な倫理観と言えるのではないでしょうか。

2012-12-24 10:03:09

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