奥田英朗といえば、トンデモ精神科医伊良部が活躍する一連のシリーズのイメージが強く、どちらかといえばおちゃらけ系なのかと思いきや、この作品は非常に硬派だ。
昭和39年という時代の雰囲気がうまく物語に織り込まれており、史実にはなくても実際に起こっていてもおかしくない設定となっており、よく考えられた物語である。
オリンピック前夜、代々木体育館をはじめとする各種競技会場や首都高速道路などが急ピッチで建設される中、主人公島崎国男の兄が突然亡くなった。国男は東大大学院生であったが、兄の死をきっかけに労働者の立場を身をもって感じたいと思い、出稼ぎ労働者たちが集まる飯場に転がり込む。これがやがて国男の人生を大きく変えていくことになる。
物語は当初、2~3ヶ月の時間差のある状況を行ったり来たりするため、時間の流れが一瞬わからなくなってしまうところがあるが、やがてその時間差が徐々に埋まっていき、その中でいろいろな謎が解明されていく。上巻は国男がいいようにやられていく様子も克明に描かれ、非常にもどかしい思いをしながら読み進めることになる。しかし、不思議と読む手が止まらない、先が気になる物語でもある。
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Atsushi Egi