臨床心理士・岬美由紀が活躍する千里眼クラシックシリーズ第5弾。
前作で追い詰められた友里佐知子は、山手トンネル事件の犠牲者が集まる49日法要の場に姿を現す。参列者たちが隠し持っていたものがレアアースではないかとにらみ、法要の会場から出てくるトラックを待ち受けるが、そこにあったものは全く思いもよらないものだった。
平穏な日々を取り戻した美由紀は、北朝鮮による拉致事件に絡むと思われる失踪者の父親から依頼を受ける。それは自衛隊時代に悔いの残る出動となった北朝鮮による不審船領海侵犯の際の拉致被害者ではないかと思われた。
一方、北朝鮮の総書記の息子が不法侵入した際に一緒にいた女性は、身分を偽り、韓国人臨床心理士として美由紀たちの臨床心理士会に職を得る。怪しいとにらんでいた美由紀だが、いろんな場面でふれあっていくうちにお互いの心情がわかり始める。
本作は派手な冒険活劇というよりも精神的な人とのつながり、あるいは岬美由紀が背負ってきたものといった背景が少しずつ解き明かされ、物語により奥行きをもたせている。特に、自衛隊自体の悔いの残る出動の件や北朝鮮工作員と思われる女性とのやりとりなどは、これまでの強い岬美由紀ではなく、人間としての弱いところや優しさなどがより丹念に描かれているようで好感が持てる。ラストに向けて優しい気持ちになれる、そんな展開もこれまでの千里眼シリーズとは一線を画している印象だ。
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Atsushi Egi