千里眼クラシックシリーズ第9弾。
本作ではこれまでほとんど語られることのなかった美由紀の過去、特に両親が死んだいきさつや救難部隊を目指していた頃の同僚とのやりとりなどが上巻のほぼ3分の2ほどを使って語られる。そこでは女性幹部自衛官の少なさから世間体を気にして有能な自衛官から選抜すべき救難ヘリ要員を女性だけに限定して選抜しようとする組織の思惑を不快に感じながらも自らが目指す救難部隊への配属のために選抜試験を受ける美由紀と、父親が人事権を持つトップエリートの娘との確執などが描かれ、これがやがて下巻での美由紀の境遇に大きく関わってくることになる。
上巻ではこれまでのようなアクション主体の物語からやや一線を画し、美由紀の内面の心情を深く掘り下げ、美由紀という人物により奥行きをもたせようとする著者の思いが感じられる。これまでの物語では異常に思えるほどのスーパーウーマンとして八面六臂の活躍をしてきた美由紀だが、それも過去の血のにじむような努力があったから、ということをしっかりと描いていく。やがて、現代に物語は戻り、アメリカの仕掛けたイラク戦争によって大幅に治安の悪化したイラクにおいて、成り行きとはいえ戦争に歯止めをかけるべく美由紀が単身挑んでゆく。
イラク戦争というアメリカの仕掛けた帝国主義的暴虐をある意味最も真実に近い形で描いているのではないかと思えるくらいリアリティに溢れた設定と、それをイラク側に立つことになった主人公の目を通して描いていくところは、メディアリテラシーという意味でも学ぶところが多い。報道されるものがすべて真実ではない、ということを改めて考えさせられる。
Wow! ノートはまだありません
Atsushi Egi